アトピー性皮膚炎は、成長後もさまざまな症状として残ることがあります

乳幼児期からの「掻きグセ」を早く見つけ、将来の肌トラブルを防ぐために
はじめに
アトピー性皮膚炎は、湿疹が一時的に良くなれば終わり、という病気ではありません。乳幼児期に身についた「掻く・こする」という行動が残ると、成長後も皮膚や目、鼻、気管支などにさまざまな症状が出やすくなることがあります。
当院では、このようにアトピー性皮膚炎の経過の中で長く残る影響を、患者さんにわかりやすく説明するために「アトピー性皮膚炎の後遺症」と呼んでいます。
「自分には関係ない」と思われる方も多いかもしれません。しかし、敏感肌、繰り返すニキビ、頭のかゆみ、フケ、手荒れ、左右の視力差など、実は幼少期から続く掻きグセやこすりグセが関係している場合があります。
アトピー性皮膚炎に関連してみられる症状
アトピー性皮膚炎の経過に関連して、次のような症状がみられることがあります。
- 皮膚の症状:敏感肌、酒さ様の赤み、脂漏性皮膚炎、繰り返すニキビやニキビ痕、治りにくい手湿疹、慢性の頭部湿疹、デリケートゾーンのかゆみなど。
- 目の症状:目をこすることによる乱視、円錐角膜、白内障、緑内障、網膜剥離など。特に「目をこする癖」は、視力や乱視に影響することがあります。
- 気管支・鼻の症状:気管支喘息、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎など。
- 食物に関する症状:食物アレルギーなど。
※症状の出方には個人差があります。上記の症状がすべての方に起こるわけではありません。
アトピー性皮膚炎はどこから始まるのか
当院では、アトピー性皮膚炎の最初のサインは、生後2週間から1か月ごろに顔や頭に出る湿疹であると考えています。一般には「乳児湿疹」または「乳児脂漏性皮膚炎」と呼ばれることが多い症状です。
海外の論文でも、頬は乳幼児アトピー性皮膚炎の初発部位であると報告されています(Br J Dermatol. 2018;179(2):431-441)。以前の診断基準にも「重症の乳児湿疹」という項目があり、乳児期の顔の湿疹は注意してみるべき重要なサインです。
【画像挿入位置:乳児期の顔面湿疹の写真】

こすることで湿疹が広がり、掻きグセがついていく
顔に湿疹ができるとかゆみが出ます。赤ちゃんは顔を左右に動かしてお母さんの胸などにこすりつけたり、手で引っ掻いたりします。その刺激によって湿疹はさらに悪化しやすくなります。
乳児期は首が短く、横になっていると顎と胸が接触しやすい時期です。顔を動かすことで顎、首、胸がこすれ、赤くただれたようになることがあります。また、肘の内側、膝の内側、わき、手首、足首なども、動くたびに皮膚がこすれやすい部位です。
これらは、アトピー性皮膚炎の湿疹が出やすい典型的な部位です。つまり、湿疹そのものだけでなく、「こする・掻く」という刺激が皮疹を作り、悪化させる大きな要因になっているのです。
【図挿入位置:アトピー性皮膚炎で湿疹が出やすい部位】

当院が重視している「掻きグセ」とは
「掻きグセ」とは、かゆいから掻くだけではなく、同じ場所を無意識に触ったり、こすったり、掻いたりする行動が習慣化した状態です。指しゃぶりや爪噛みに似て、掻くことで気持ちが落ち着くようになる場合があります。
この掻きグセがつくと、ほっとした時、不安な時、眠い時、ストレスがかかった時などに、同じ部位を繰り返し掻くようになります。その結果、湿疹は良くなったり悪くなったりを繰り返します。
1〜2歳ごろにはアトピー性皮膚炎らしい症状が目立ち始め、5歳ごろになると典型的なアトピー性皮膚炎の状態になっていくことがあります。
「治ったように見える」時期にも注意が必要です
アトピー性皮膚炎は、中学生になるころには目立つ湿疹が軽くなることがあります。しかし、皮膚をよく見ると、どこかに掻いた痕や、触っている痕が残っていることがあります。
10歳前後になると、掻きグセが顔に移ることがあります。頬や額がカサつく、ニキビのような小さな発疹が出る、顔をよく触るといった症状です。ニキビとして治療してもなかなか改善しない場合、背景に掻きグセが関係していることがあります。
その後、就職、結婚、転職、引っ越し、睡眠不足、病気、生理前など、生活環境や体調の変化がきっかけになって、顔の肌荒れ、手荒れ、頭のかゆみ、体のかゆみなどとして再燃することがあります。
なぜ大人になってから治りにくい症状になるのか
大人になってから出てくる症状は、化粧品によるかぶれ、手湿疹、脂漏性皮膚炎、ニキビなどと診断されることがあります。もちろん、それぞれの診断や治療は大切です。
ただし、その背景に「同じ場所を触る・こする・掻く」という行動が残っている場合、湿疹を一時的に抑えるだけでは再発を繰り返しやすくなります。当院では、ここにアトピー性皮膚炎を長引かせる大きな原因があると考えています。
掻く行動が長期間続くと、癖の段階を超えて、掻くことで安心する、掻かないと落ち着かないという状態になることがあります。当院ではこの状態を「掻破依存症」と呼び、早期から予防することが重要だと考えています。
掻きグセを取るには、早期の対応が重要です
どの病気でも、早い段階で見つけて対応するほど治療しやすくなります。掻きグセも同じです。
当院の診療経験では、掻きグセは生後1か月ごろにはすでに始まっていることがあります。そのため、顔の湿疹やこすりつける動作が見られたら、できるだけ早くご相談いただくことをおすすめしています。
生後1か月から0歳の間は、掻きグセを修正しやすい大切な時期です。1〜3歳でも対応できることはありますが、掻きグセが強いお子さんでは早めの治療が必要です。5歳を過ぎると、単なる癖ではなく、掻くことへの依存に近い状態になり、治療が難しくなることがあります。
当院の治療方針
当院では、湿疹を抑える治療だけでなく、掻かせない工夫、こすらせない工夫を重視しています。保湿や外用薬などの一般的な治療を必要に応じて行いながら、掻きグセそのものを減らすことを目標にします。
受診時には、アトピー性皮膚炎の経過、掻きグセの仕組み、家庭での注意点について、時間をかけて説明します。皮膚の状態が少し落ち着いた時点で治療を中断すると、掻きグセが残り、将来再発しやすくなることがあります。
アトピー性皮膚炎の治療で大切なのは、「湿疹が消えたかどうか」だけではありません。「掻かなくなったか」「こすらなくなったか」まで確認しながら、継続して治療することが重要です。
最後に
掻きグセは、癖のうちに取ることが大切です。依存に近い状態になる前に、乳幼児期からきちんと対応することで、将来の肌トラブルや目のトラブルを減らせる可能性があります。
お子さんの顔の湿疹、体をこすりつける動作、同じ場所を繰り返し掻く様子が気になる場合は、早めにご相談ください。
当院を受診される前に、院長著「アトピー性皮膚炎、実は依存症だった!」をお読みいただくと、治療方針をより理解しやすくなります。
※本ページの内容は、当院の診療経験に基づき、患者さんにわかりやすく説明するためのものです。症状の原因や治療方針は個人差がありますので、気になる症状がある場合は医師にご相談ください。