アトピー性皮膚炎の概略

アトピー性皮膚炎は治らないのか?

癌でも糖尿病でも発症初期から適切な治療をすれば完全に治る病気である様に、アトピー性皮膚炎も発症初期から適切な治療をすれば必ず治る皮膚病なのです。そのためには①発症極初期の時点で診断出来る事、②それに対して適切な治療が出来る事、つまりタイミングと内容の2点がそろわなければ、逆に治らない、いや治す事は困難であると言えます。

治らないと言う意味は、一つは一度も治らず一生涯掻き続ける場合、これは誰でも治っていないとわかると思いますが、二つ目は一旦治ったのに(正確には治った様に見えたのに)、また何らかの事をきっかけに再発するタイプの2つがあります。

つまり治ったと思っていたアトピー性皮膚炎患者も、実はほぼ100%再発しているのです。それは何故かと言いますと、以下に述べる掻き癖が大きく関係します。

掻き癖とは?

アトピー性皮膚炎の初発症状は、生後1カ月頃顔に出来るジュクジュクした湿疹の事が多く、それが出来ると痒いために掻こうとして顔を擦るようになります。それを続けていると掻く事が指しゃぶりと同じ精神安定作用(掻く事に対する精神的依存=掻くと心が落ち着く)をもたらす様になり、ほっとしたとき(オッパイを飲んでいる時や眠くなったとき)などに顔をこすって掻く様になります。これが「掻き癖」の始まりなのです。その後アトピー性皮膚炎の特徴的な乾燥肌「アトピックドライスキン、通称サメ肌」が現れ、更に掻き出して掻き癖が徐々に強くなります。この掻き癖は1歳になるまでにほぼ完成しているようです。

その後アトピー性皮膚炎の本体である乾燥肌自体は思春期前後で自然に治りますが、掻き癖は一種の精神的依存症(過食症やパチンコ依存症の仲間)であり、乳幼児期に強制的に取り除かない限り一生残り、ストレスを契機に(一般的には就職直後から)、またどこかを掻き始めるようになります(湿疹の再発)。

一旦治った様に見えてまた突然何処かを掻き出すのは、この掻き癖が記憶の底に残っているからなのです。大人になって突然アトピー性皮膚炎になったと言う話を耳にしますが、それはこの事なのです。

出生時から症状が強いアトピー性皮膚炎の患児も稀には居ますが、殆どの患児は、最初はそれほど症状が強くなくても、掻いているうちに掻き癖が徐々に強くなり、その結果症状が悪化して行きます。

一般的に知られている典型的なアトピー性皮膚炎は、乳幼児に適切な治療をなされなかったために、ひどく掻く様になりあのような状態になっただけで、最初から適切な治療をすれば絶対にあのような状態にはならないはずです。

この「掻き癖」はアトピー性皮膚炎の患児は必ず持っていますが、乳幼児の出来る限り早い段階で取り除く治療をすれば、小児期までには完全に取り除く事が出来ます。

ではこの掻き癖を取るにはどうすれば良いかと言う事になりますが、一般的なアトピー性皮膚炎の治療(湿疹部にはステロイド軟膏を塗って、カサカサが強い部位には保湿剤を塗り、かゆみ止めを飲ませる)を対症療法と言って、この治療では絶対に掻き癖は取れません。勿論一旦付いた掻き癖は自然に取れる事はないので、特殊な治療で強制的に取る事が必要なのです。このような治療を「根治療法」と言い病気を完全に治す治療のことなのです。

 

アトピー性皮膚炎と早期に診断する意味は?

乳幼児のただの乾燥肌ではなくアトピー性皮膚炎と診断する意義は、アレルギーによって起こる他の合併症(食物アレルギー、喘息、アナフィラキシーショックなど)も視野に入れて治療しなければならないからです。当院の患者さんの食物アレルギーの合併率は58.4%と3人に2人が何らかの食物アレルギーを持っている事になりますが、これを無視出来るでしょうか。喘息は、アナフィラキシーショックは、アレルギー性鼻炎や結膜炎は、あるいはじんましんはどうでしょうか。当然無視出来るものではありませんよね。

それ故早期にアトピー性皮膚炎と言う診断を付け、そのほかの合併症の治療も同時に開始すべきだと思います。

 

いつから治療を開始するか?

アトピー性皮膚炎(正確にはアトピックドライスキン)はアレルギー家系に起こる遺伝的皮膚病変で、個体差はあれ大抵は生後3カ月の時点では肌のカサカサとして確認できます。しかしそれ以前に乳児湿疹と呼ばれている顔面のジクジクした湿疹で始まることがほとんどなのです。

よってアレルギー家系に生まれた子供は、乳児期に上述した何らかの皮膚病変が出ると考えて最初から備えていれば、比較的簡単に対処できるのです。

つまり答えは乳児期に顔面に湿疹が出来た時点と言えます。
ではこれを実践しているクリニックがあるかと言うと皆無ではないかと思います。実際に掻き出してアトピー性皮膚炎と呼べるような典型的な状態にならないと診断も治療もしてくれないと言うのが現状のようです。しかしそれでは既に手遅れで、その段階で強い掻き癖が付いているので、保湿だけでの治療で治す事は困難であり、掻き癖を取る治療が必要になります。

 

何時まで治療開始すれば治すことが出来るか?

勿論出来るだけ早期に治療開始するほうが良いには決まっていますが、掻き癖をとって完治させるのであれば少なくとも3歳までにはきちんとした治療(根治療法)を開始すべきでしょう。

掻き癖を取る治療をしなかった場合はどうなるのか?
アトピー性皮膚炎は思春期までには必ず治りますが、掻き癖を残してしまった場合は将来大きなストレスと共に(通常は就職時)必ず再発します。
その場合典型的なアトピー性皮膚炎の様な全身的症状ではなく、化粧負け、頑固なニキビや手荒れ、あるいは突然体の何処に湿疹(通常左右対称性)が出来るなど、ありふれた皮膚のトラブルとして現れますので、病院を受診しても掻き癖の再発だと気づかれることはないと思います。
ただし一旦再発するとその後はさほど大きなストレスでなくとも、ストレス毎に皮膚のトラブルを抱えるようになります。例えばいつも同じ部位が荒れる頑固な主婦湿疹、妊娠後期に体がかゆくなる、生理前になると化粧負けやニキビがひどくなるなど多々あります。
もしあなたがアレルギー性鼻炎など明らかなアレルギーを持っているのであれば、乳幼児期には当然アトピー性皮膚炎であって(気付いていないでしょうが)、そのために掻き癖が残っていて、就職を含めそれ以降のストレス毎に何らかの皮膚のトラブルが発生しているはずです。気付いていますか?
そうであればあなたのお子さんも同じことが繰り返される可能性が高いと考えてください。

 

治療開始が遅れたしまった場合はどうすればよいか?

例えば小学生になってから事の重大さに気付いた場合はもう手遅れかと言うとそうではありません。第二のチャンスがあるからです。それは再発したその時点で治療(掻くことに対する精神的依存症の治療)を行えば、その後は意識することで掻く事をコントロールできるようになり、ストレスがかかっても湿疹が出来なくなります。分かりやすく言えば、掻き癖は持っているが自分でコントロールできるため、ほぼ治った状態にできるということです。
この事は当クリニックで治療している大人の方でも、この治療をする事により、通常は湿疹が無い状態に出来る事が分かっているからです。
ただしこのチャンスを掴むには再発する前(通常就職するまで)には一旦治った状態、つまり湿疹もなくかゆくもない状態になっている必要があります。一度も治らずに掻き続けている患者さんは掻き癖が非常に強くなっているため、治すことは非常に困難を極めます。
治療開始時期が遅れた子どもさんでもきちんとした治療をして一度は治った状態にしておけば、第二のチャンスでほぼ治すことが出来るので、諦めずに適切な治療を受けてください。

 

大人のアトピー性皮膚炎はもう治らないのか?

大人の場合はアトピー性皮膚炎と診断するのは正確に言えば間違いではないでしょうか。なぜならばアトピー性皮膚炎は子供のときにすでに治っているはずですので。ではなぜそのように診断されるかと言うと、小児のアトピー性皮膚炎と似通ったパターンで湿疹が出来ているからですが、それはストレスで掻き癖が再発し、掻いてそのような状態になったと考えてください。
ただし大人の場合は掻き癖というより更に依存が進んだ状態で「掻破依存症」と呼んでいます。これは掻く事に対する強い精神的依存で、言い方は悪いのですが、「掻き中毒」という言葉が理解しやすいかもしれません。
つまり大人のアトピー性皮膚炎と呼ばれている状態は、掻く事に対する強い精神的依存のために通常の湿疹の治療で治すことは不可能だが、依存症として治療すれば治すことは十分可能であり、最終的に治ればかゆみも湿疹もない日常生活を送ることが出来るのです。

 

アトピー性皮膚炎とアレルギー

アトピー性皮膚炎の原因に関しては学会でもいろんな意見が交錯していますが、一言でいえばアレルギー体質の遺伝による皮膚角質層の異常、簡単にいえば乾燥肌のことです。主因は角質層の接着剤であり保湿機能を併せ持つセラミドという物質が酵素の異常により不足し、角質細胞が剥れその結果バリア機能や保湿機能の低下が起こり、カサカサになってかゆくなると考えられています。
アトピー性皮膚炎を簡単に表現すると、アレルギーを持った人起こる思春期までには治る乾燥肌のことなのです。ただしこれには食物アレルギーやアレルギー性鼻炎や結膜炎、喘息などのおまけが付いていますので、その治療も一緒に考えなくてはいけません。
食物アレルギーに関して言えば、当クリニックで検査した結果(RAST)、アトピー性皮膚炎の58.4%(n=2000)が陽性でした。しかし逆に約40%のアトピー性皮膚炎患者は食物アレルギーが陰性です。つまり、少なくとも約40%のアトピー性皮膚炎患者はアトピー性皮膚炎の発症に食物アレルギーは関係ないと言えます。例えアレルギー検査で食物アレルギーがある患児でも、大抵の場合2歳前後から徐々に消え始め、10歳ぐらいまでにはほぼ消えています。しかも、食物アレルギーがなくなったからといってアトピー性皮膚炎が良くなっているかと言うと、必ずしもそうではありません。アトピー性皮膚炎の発症に食物アレルギーが関与すると仮定した場合、これらの矛盾点はどう説明すればいいのでしょうか。

喘息やアナフィラキシーはⅠ型アレルギーで、食物アレルゲンが大いに関係すると考えられており、またそれについての報告も多数あります。
その中にはアレルゲンの除去により喘息の発症率が大きく改善したと言う報告もあり、喘息は食事療法により発症を抑えられる可能性があると言うことです。
結論として、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーや喘息、あるいはアナフィラキシーの合併を考えた場合、アトピー性皮膚炎患児は離乳食開始直前にアレルギー検査を実施して、陽性が強く出た食物があれば、離乳食のメニューから除去したほうが賢明だと言う事です。
最後にアトピー性皮膚炎は発症初期から適切な治療をしさえすれば完全に治癒させうる疾患なのです。手遅れになる前に是非とも一度当クリニックを受診してみてください。

 

 

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